ハナビ

団扇を仰ぎながらの河川敷、模擬店はたくさん出ているが、どれも開店の準備で忙しそうだ。

辺りには小さな子供を抱いた家族連れや、綺麗な浴衣を着た恋人たちが思い思いのことを話しながらもう直ぐ始まる花火大会を待っている。
彼らの顔は沈みゆく夕陽で茜色に染まっている。

ボクはといえば先日フラれた彼女のことを思い出しながら、ぼんやりと土手に腰掛けている。
ほんとうならこの場所に彼女と作ったサングリアなんか飲みながら、始まりの合図を待っていたはずなんだけどな。

なんであんな事を言ってしまったんだろうかと、考えていた。

ここ、空いてる?

周りはだんだん人が集まってきていて、ゆっくり腰掛けるスペースがなくなってきていた。
ボクは独りで2人分の場所をとっていたので、空いているなら座らせてとその子は言った。

いいですよ、ボク独りですけどよろしければ

ありがと

膝を抱えて座っていたボクの横に小柄なその子は腰を下ろした。

花火大会の内容をボクは全く覚えていない。
だって花火が上がり始めたとき、その子はボクの腕を優しく掴み、左肘の内側にそっと唇をつけたから。
彼女は何も言わなかったし、ボクも聞かなかった。
花火が開いたときに赤やオレンジに染まるその子の顔をじっと見ていた。
でも彼女の夏に対する切ない想いだけは何となく伝わって、ボクもむず痒い気持ちになった。

花火大会が終わったときボクは「また会える?」と聞いた。
彼女は「きっと会えるわ」と答えた。

ボクは左腕の内側の少し赤くなったところを見ながら、なぜか二度と会えないだろうなと直感した。

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