祭囃子が聞こえる
6月の終わりの夕刻--
谷あいに太鼓と笛の音。
(今年ももうこの季節ね)・・と、まだ明るい空を目を細めて見上げる。
夏祭りまで凡そひと月。
各町内伝統の木彫り山車や団体ごとに思いおもいの工夫を凝らした装飾山車、そして神輿が規制された国道を人で埋め尽くして競う。
それぞれの地域で各々が練習するため、山の上にある我が家では彼方此方からお囃子の音が聞こえる。
彼らは祭りまでの間、子供たちを中心に練習を重ねる。
今年も始まったわね。まだ音が揃ってないわ
--新しい子が多いのだろう
もう何年聞いてきたかしら。シャギリは何度見ても良いわね
『シャギリ』とは山車がすれ違うときに行われるお囃子合戦のようなものだ。
--俺は喧しいのよりシンプルなのが好きだな
窓の外はヒグラシの声とともに次第に暮れ落ちようとしていた。
うちの子たちはお盆には帰ってくるのかしら
あなたは線香から真っ直ぐに昇る煙の向こうでいつもと変わらぬ様子で微笑んでいる。
その顔は「きっと帰ってくるさ」と言っているように見えた。
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