焼ける空
うとうとしていた。
居所は小高い山の上の方にある。
急峻の所為か風がよく抜ける。
そのため夏でも空調はほとんど不要でシーリングファンだけで過ごせる。
今年の暑さは格別だがそれでも朝夕の涼しさもあり、天井で穏やかに回る扇だけで過ごしている。
しかし体は堪えていたのか。
ひと仕事を終えた午下り、遠くに蝉の声を聞きながら意識を失うように小上がりの畳の上で眠りに落ちた。
どれくらい経ったであろう。
凱風が頬を撫でうっすらと目をあけた。
気づくと家中がオレンジに燃えている。
鮮やかな、鮮やかなオレンジに。
ーーー火事? いや風は心地よい
「どうしたの?」
妻の声に(夕焼けだ!)と気づき咄嗟に飛び起きカメラを持って庭に出る。
見上げた空中をオレンジに染め上げた夏の太陽が沈もうとしていた。
もう何十年も見たことがないような見事な夕焼け。
「君もおいでよ」
キッチンで夕食の支度をしていた妻もカメラをぶら下げて出てきた。
サンダルの片方に足の指がちゃんと入っていない。
二人でしばしシャッターを切った。
無言のまま。
鮮やかなオレンジ色はものの数分で群青色に変わり、そして深い藍色に落ちてゆく。
そして暗闇になってゆくのだ。
再び風が頬を撫でた。
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